精神障害の労災認定が7年連続で過去最多を更新するなか、休職からの復職判定の基準や、主治医への情報提供、指定医制度の整備など実務上のポイントを整理します。
はじめに
厚生労働省が公表した令和7年度「過労死等の労災補償状況」によれば、精神障害の労災認定件数は7年連続で過去最多を更新しました。出来事別ではパワーハラスメントが最も多く、企業規模を問わず、メンタル不調による休職・復職の対応は避けて通れない実務課題となっています。
休職からの復職を巡っては、判断基準のあいまいさや情報不足によるトラブルが起きやすく、就業規則の整備段階から手順を明確にしておく必要があります。就業規則に休職・復職に関する規定が置かれている前提で、復職判定の実務上のポイントを整理します。
復職の判断基準の考え方
多くの就業規則では「休職事由が消滅したとき」に復職できる旨を定めています。その判断は、休職前に従事していた業務を通常の程度に行える健康状態まで回復しているかどうかが基本です。ただし、ほかに配置可能な軽易な業務があり、本人がそれを申し出ている場合には、企業の規模や業種、配置転換の実情などに照らして復職の可否を検討する余地もあるとされています(片山組事件・最判平10.4.9)。就業規則には、この判断基準を明文化しておくのが出発点です。
主治医への情報提供と指定医の活用
判断材料が主治医の診断書だけの場合、主治医が業務の実態を把握しないまま、復帰すべきでない状態で復職可能と診断されることがあります。
こうした事態を防ぐには、本人の同意を得たうえで、会社から主治医に「職場復帰支援に関する情報提供依頼書」などの書式で情報を提供します。復帰予定の業務内容、労働時間、職場の人員体制、対人関係など懸念される事項を具体的に伝え、そのうえで復職の可否や必要な配慮について意見を求める運用が有効です。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でもこの手法が示されており、情報提供依頼書などのひな形をあらかじめ様式集として整備しておくとよいでしょう。
目的は正確な診断を得ることですから、主治医には中立で客観的な事実を伝えます。
あわせて、産業医の意見も聴取し、見解が食い違う場合に備え、就業規則に「会社が指定する医師の受診を命じることができる」旨を規定しておくと対応根拠になります。産業医の意見に合理性を認めて会社の判断を有効とした裁判例(ホープネット事件・東京地判令5.4.10)もあり、医学的な意見を得られる体制の整備は、会社にとって重要な備えです。
配置転換を伴う場合の同意
原職への復帰が困難で、ほかの業務への配置転換を伴う場合、職種や勤務地を限定する合意があれば、本人の同意が必要です(滋賀県社会福祉協議会事件・最判令6.4.26)。あわせて試し出勤・リハビリ出勤制度を設け、段階的に業務量や勤務時間を本来の水準へ戻していくプロセスを規定しておくと、無理のない復職につなげやすくなります。上司・人事・産業医の三者で復帰後一定期間のフォローアップ面談を実施する運用も、再発防止につながります。
まとめ
復職ワークフローを実効的に機能させるには、就業規則に復職の判断基準・主治医への情報提供の仕組み・指定医制度の明文化が要です。早めの規程整備を検討したいところです。
