2026年4月以降、年金支給停止の仕組みである在職老齢年金の基準額が引き上げされる見込みです。
はじめに
年金制度のなかでも、特に働くシニア世代に大きな影響を与えるのが「在職老齢年金制度」です。働くことで年金が支給停止されるこの仕組みは、シニア世代の就労意欲を削ぐ恐れがあると指摘されています。2026年以降に予定されている改正内容の動向を解説し、企業として留意すべきポイントをご案内します。
在職老齢年金とは
在職老齢年金とは、厚生年金に加入して働いている60歳以上の方に対し、一定の賃金と年金額の合計が基準額を超えると、その超過分に応じて年金が一部または全額支給停止となる仕組みです。※注
具体的には、老齢厚生年金の年額÷12(基本月額)と、毎月の賃金(標準報酬月額+1年間の賞与(標準賞与額)÷12)の合計額が51万円超となるときに、超えた額の2分の1が支給停止となります。
3万円超過しているため、その2分の1である月額1.5万円が年金から支給停止されます。
年金支給額=120万円-1.5万円*12ヶ月=102万円
つまり、年金額が120万円→102万円に減ります。
※在職による支給停止は老齢厚生年金に対して行われるもので、老齢基礎年金は支給停止の対象とはなりません
見直しの内容
2025年6月13日の年金改正法案成立により、2026年4月から基準額を月62万円へ引き上げることとなりました。このことにより、年金の支給停止はさらに起こりにくくなります。
在職老齢年金と支給繰り下げ
老齢厚生年金は原則65歳から支給されますが、本人の希望によって最大75歳まで「繰下げ受給」が可能です。繰下げることで1か月あたり0.7%、1年で8.4%ずつ年金額が増額され、75歳まで繰り下げれば年金額は最大84%増額される仕組みです。
「在職老齢年金の支給停止を避けるため、繰下げ支給を選択したい」という意見もありますが、この方法では実質的な回避になりません。なぜなら、在職により本来支給停止となるはずだった年金額は、繰下げによる増額の計算対象から除外されるためです。つまり、増額されない部分が生じ、期待した効果が得にくくなります。
例えば、年金基本月額20万円、役員報酬が月100万円の代表取締役(65歳)が、老齢厚生年金を繰下げて受給開始年齢を5年繰り下げたとしても、繰り下げた5年分の年金は増額されないことになります。
超過額の2分の1である月額29万円>20万円(年金全額)が支給停止対象扱いとなり、繰り下げの増額メリットを受けられません。
★参考
年金に備え、時流をつかむ【年金額の補強】会社が加入できる「退職金等の制度」について