専門家がどういう観点で解雇相談に対応しているのか、労使トラブルの予防のためそのポイントについて紹介します。
はじめに
「日本で解雇は難しい」という情報は広く認知されていますが、解雇が難しいのは、労働関係各法が「労働者を守ること」を目的にしているためです。
そのため、弁護士や社労士などの専門家が職場トラブルの相談を受ける際には、この労働者保護の原則を踏まえた上で、状況を確認していきます。以下、実際の相談対応で心がけているポイントをご紹介します。

1.事案の重大さと解雇の相当性
まずは事案の重大さを客観的に評価します。解雇の理由ごとの判断ポイントは概ね以下の表のようになります。



2.客観的証拠の有無
当然、解雇理由の裏付けがどこまで客観的に証明できるかは解雇の妥当性判断に非常に重要です。たとえば指導記録、メール、面談メモ、画像や映像、音声、メッセンジャーアプリのスクリーンショットなどを確認します。

3.社員の属性と経済的影響の把握
次に確認するのが、社員の属性や経済的背景です。勤続年数、年齢、性別、家族構成、年収、再就職のしやすさなどは、解雇後の影響や補償額を考えるうえで不可欠な情報です。
たとえば、勤続20年のベテラン社員と入社半年の社員では、社会的影響も労働審判での評価も大きく異なります。また、扶養家族がいる場合には、社会的な配慮義務も問われやすくなります。これらは解雇そのものの是非だけでなく、退職勧奨や合意退職へ切り替える際の提案内容を検討する上でも重要な要素です。
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就業規則の整備状況と一貫性
就業規則に「解雇の事由」が明確に定められており、それに基づいて行動しているかどうかを確認します。また、同様の問題を起こした過去の社員にどう対応したかも見ます。つまり、「ルールがある」「ルールを公平に運用している」この2つがそろっていることが重要です。
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未払い残業代の確認
もし過去にサービス残業が常態化していた場合、解雇後に「不当解雇+未払い残業請求」で争いになることがあります。労使紛争では、会社側が思っている以上に残業代の証明責任が重く、結果的に高額の支払い命令につながる可能性もあります。
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解雇以外の選択肢も検討
解雇という土俵で争うと、解雇無効となるリスクや解雇予告手当、未払い残業代などの金銭リスクに派生する可能性があります。解雇の妥当性が十分にある場合でも、自己都合退職や合意退職などによる穏便な解決も視野に入れながら進めましょう。
解雇事案に対応する際には基本的には感情的な対立を避け、できるだけ理性的・論理的に対処する心構えが重要です。