従業員が勤務時間外のプライベートで問題行動や犯罪行為を起こした場合、その行為を理由に企業が解雇処分を行えるのか、最近の裁判例を交えて解説します。
はじめに
昨今はSNSやメディア報道等を通じて、従業員の不祥事が企業の評判リスクへ直結するケースが増えています。従業員が勤務時間外のプライベートで問題行動や犯罪行為を起こした場合、その行為を理由に企業が解雇できるのでしょうか。今回は、私生活上の刑事事件を理由に解雇が有効と判断された「大塚商会事件」を参考にしながら、私生活上の非違行為と解雇の有効性の判断基準について整理します。
大塚商会事件の概要
本件は、東証プライム上場企業である大塚商会の営業社員に関する事例です。この社員が、勤務時間外に面識のない女性に対する不同意わいせつ罪容疑で逮捕され(最終的に不起訴処分)、これを理由に懲戒解雇されました。解雇された労働者は「私生活上の行為であり業務に無関係だ」と解雇の無効を主張しましたが、東京地方裁判所(令和6年10月25日判決)は懲戒解雇を有効と判断しました。
私生活と解雇の関係
一般に、従業員が業務時間外に起こした私的な問題行動を理由として会社が直ちに解雇やその他の懲戒処分を行うことは認められていません。例えば、東京地下鉄事件(東京地裁平成27年12月25日判決)では、電車内の痴漢行為を理由とする諭旨解雇が「解雇権の濫用」と判断され、無効とされました。
裁判所の判断基準の変化
今回裁判所は、解雇を有効と判断するにあたり、社会的な影響の大きさ、犯罪の悪質性、報道による会社の信用失墜などの点を重視しました。コンプライアンスが強く求められる現在、「私生活上の行為は懲戒できない」という従来の見方に変化が生じているといえます。
判断のポイント
私生活上の問題行動を理由とした解雇の有効性を判断する上で重要なポイントは以下の通りです。
1.社会的影響・企業イメージの毀損の程度
犯罪行為やSNSでの炎上等により、企業イメージが損なわれ、苦情対応などで業務に影響を与えたか
2.職務内容との関連性
営業職・接客職・公的立場を伴う業務など、対外的信用が重視される職務であるか。されているかどうか
3.犯罪の悪質性
暴力、性犯罪、薬物など、刑事罰の対象となるような悪質な違法行為であるか
4.懲戒規程の整備
社内の懲戒規程に「私生活上の行為であっても会社の信用を著しく損ねた場合は懲戒対象とする」などと明記されているかどうか
解雇の有効性で争う場合の注意点
私生活上の問題行動に基づく懲戒解雇が認められる傾向は見られますが、実際の裁判で無効と判断された場合、係争期間中の賃金を遡って支払う義務が生じます。
現実的な対応策として、懲戒解雇の手続と並行し、退職勧奨を提案する選択肢を用意しておくと安全です。
企業規模や事業内容に応じ、「懲戒処分の対象となる私生活上の問題行動」をリスト化し、就業規則で周知する方法が有効です。
たとえば幼児教育現場では、痴漢などの性犯罪が企業イメージに深刻な影響を及ぼします。特に重大な行為は、プライベートでも懲戒対象になると従業員に明示し、抑止効果を高めましょう。