牛丼チェーンすき家で、深夜の駐車場で接客の自主トレーニングをする様子が「ブラック企業ではないか」と話題になりました。自主練と労働の違いを考察します。
はじめに
2022年11月下旬に、一般人が牛丼チェーン「すき家」における接客自主トレの様子を動画投稿し、話題となりました。
深夜に店舗の駐車場に半袖で配膳接客のトレーニングをし、上司がそれを指導している様子が拡散されると「すき家はブラック企業体質ではないか」などの憶測が飛び交う事態となりました。
今回は「スタッフ側から社内コンテストに向けて自主的に練習を申し出た」というのが実際のところのようですが、その厳しい鍛錬の風景をネガティブに捉えた人もいたようです。
「自主練」は、技術職などトレーニングが必要な職種において行われていますが、その時間は労働時間なのか、また自主練の労務管理上の注意点について考察します。
自主練と労働
自主練が労働時間であるか否かについて考えるためには、「労働時間とは何か」を知る必要があります。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインによると、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる(たとえば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用指示により業務に必要な学習等を行っていた時間は労働時間に該当する)とされています。
つまり、その自主練に直接的あるいは間接的な強制性があったかどうかが判断基準となります。
たとえ直接強制していなくても、自主練の参加が人事評価に直結していた場合などは労働時間として判断される可能性があります。
逆にいうと、自主練=労働時間とならないようにするには、強制的でなかったことを裏付ける記録(自主練のための施設利用申請書を都度提出させるなど)を検討する必要があります。
安全配慮義務
一方で会社は労働者に対して「安全配慮義務」を負っています。
労働契約法第5条で「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」とある通り、自主的なトレーニングだからといって職場での安全配慮義務から免れることができません。
今回のすき家の自主練動画を見る限り、「気温4度の寒い中外で練習をさせていた」という点で安全配慮が足りなかったという指摘が起こりうるポイントだったといえるかもしれません。
今回の事件が一般人のツイッター投稿を発端として拡散されたことを考えると、「行き過ぎた自主練は拡散され評判リスクとなり得る」ことを企業は想定しなければならないことが分かります。
現実的な対応
このような事件はしばしばイデオロギー論争の題材に利用されます。労働者保護を重視する人からは「パワハラだ、ブラック企業だ」という非難が起き、精神論者からは「本人がやりたいと言っていることをなぜ止めさせるのか」という反論が起こります。
今回のすき家の件はスタッフのモチベーションを高めるための「社内コンテスト」という施策が上手くいった結果であるとも言えるし、上手くいったことで新たに表面化した「評判リスク」でもあります。
企業側の現実的な対応は、「やり過ぎないようにコントロールする」に尽きるのではないでしょうか。
自主練を強制はせず、それでいて前向きな訓練は応援する、ただし過熱し過ぎないようにケアする、というバランス感覚を持った労務管理体制が求められるでしょう。