新型コロナウイルス感染症により大規模な雇用調整が続く中、人余りの企業と人不足の企業を結びつけ、時限的出向により労働力を提供する「従業員シェアリング」という考え方が注目されています。
はじめに
令和3年1月、1都3県を中心とした新たな緊急事態宣言が出され、飲食業、旅行業などの業種における雇用調整が各地で行われています。
昨年の緊急事態宣言の時には、航空会社から医療業などへの出向や、居酒屋チェーンから食品スーパーへの出向などが行われました。
このように「人余りの企業」と「人不足の企業」の間で時限的に社員を出向させることを「従業員シェアリング」といい、コロナ禍で注目を集めています。
以下、従業員シェアリングの法的説明と今後の展望について考察していきます。
法的な関係について
従業員シェアリングの法的関係は「在籍出向契約」であることが多いでしょう。
この場合、出向元企業との雇用関係を維持したままで、社員に出向先企業で働いてもらうことになります。
似たような関係として「労働者派遣契約」がありますが、労働者派遣契約は派遣元とのみ雇用契約がある点で異なります。
賃金負担について
在籍出向契約の場合の賃金負担については、法律的に定めがありませんので、企業間で話し合って決めます。
先の緊急事態宣言時には、出向先企業に賃金負担をさせず、全額出向元負担とした企業もあったようです。
逆に全額出向先が負担しても、両社がともに賃金負担をしても構いません。
なお、出向元企業が賃金を一部又は全部負担している場合、「雇用維持のための出向」として雇用調整助成金の対象となります。
従業員シェアリングの展望
一見、この「従業員シェアリング」は、出向元企業、出向先企業、労働者ともに救われる優れた仕組みのように見えますが、もちろん現実的にはいくつかの大きな課題があります。
課題1:人材流出
出向した社員が優秀であるほど、出向を機に他業種からスカウトを受けて退職してしまうリスクが高まります。
たとえ企業間の契約で厳格に引き抜き等を禁止したとしても、自己都合で退職する社員を留めるのは容易でありません。
課題2:専門性と教育
短期間の出向者に対して多くの場合専門性を求めることができないため、単純作業を任せることになります。
また、時限的であるがゆえに受け入れ企業が積極的に社員教育をしないという問題もあります。
既存の社員との軋轢が起きることも予想されます。
課題3:ビジネスモデルの変化
今回のコロナ禍によるテレワークや雇用調整は、「人を雇い過ぎていた」と企業に気付かせるきっかけにもなったという意見もあります。
今後企業が雇用を減らしていくとしたら、真っ先に削られるのは「ロボットで代替できる単純労働」や、「一時的な出向者にあてがった仕事」になることが予想できます。
逆に従業員シェアリングが機能する場面を想像すると、「利害や損得を超えたコミュニティーの中のシェアリング」なのかもしれません。
「竹馬の友」である経営者同士であれば従業員シェアリングによる助け合いがうまくいきそうです。
また、趣味などのコミュニティーにおける連帯感を土台にして仕事を融通し合うことも可能でしょう。